・若干R15。ヤマなしオチなしイチャイチャ。苦手な方はバックプリーズ!
チャイルド・プレイ
照明が、薄暗く落とされた一室だった。
セピア色の灯りが仄かに満ちたホテルの一室で、のびやかにこどもが手を伸ばす。
小さな体躯の方が、幾分背の高い方に飛びかかった。
手加減して落ちた先でそのままぎゅうっと抱き合って、ごろごろっと羽布団を転がる。キングサイズのベッドは戯れを阻まない。
きゃらきゃらと楽しそうな笑い声でも聞こえてきそうな光景だった。ただし、こども達が衣服を纏っていれば、PTAのどんな小言もねじふせられただろうに、自由な手足を覆い隠す何も存在していない。
シングルルームの密閉空間に、邪魔する物は皆無だ。布一枚の道徳も。
背の高い方がふと小さな体躯の子を見下ろすと、胸に顔を埋めてこどもは息を殺している。視線を感じたのか顔を上げた所で、背の高い方がまじまじと見ていることに気付いてさあっと耳まで真っ赤になると、さらに顔を伏せた。
「なにやってるの、佳主馬くん」
背の高い方が笑いながら問い掛けると、
「だって……」
と小さい方は拗ねたように顔を埋める。その行動か、それとも体勢を指してか、背の高い方が揶揄交じりに指摘した。
「佳主馬くんのえっち」
「っっこの位置に落ちるつもりはなかったっていうか、図らずもベストポジションっていうかこれは決して故意じゃないっ」
がばっと頭をもたげて言い募る。
「くすぐったいよ…」
首に掛かった吐息に身をよじって、あえかな溜息を漏らす。ぎょっとして矮躯のこども――少年は身体を起こした。
背の高い方の胸は、薄く隆起していた。背もさほど高くはない。こどものように凹凸の少ないのびやかな体型は、それでもすんなり伸びた手足とともに少女のそれだ。
対して褐色の肌の小さい方は、すべすべとした滑らかな肌がしなやかな矮躯に張り付いて、薄い筋肉の形を綺麗に際立たせている。
佳主馬と呼ばれた少年は、すぐに顔を首筋に埋めてちろちろと舌先を這わせ始めた。
「きゃあ。くすぐったいってば」
「健二さん、棒読み。きゃあだって」
驚きを押し隠して、冷静な声音で復誦する少年。
こういう時はこう言うと喜ぶって聞いたのに、と少女の方が言うと、世間ではどうか知らないけど僕は喜ばないよ、と真面目な顔で少年が返した。
「健二さんだったらどんな媚態だっていいけど。でも素直に声を上げてくれた方がいい」
「えー」
抗議してむずかるように顔を左右に振る。白い腕をすんなりと褐色の背中に回した。
すると目線がぴったりあって、こつんと額を合わせると、どちらともなくくすくすと笑い出す。
「健二さん、鳴いてよ」
「言い方がエロい」
「エロいよ、健二さんの前では、いつだって」
もう獣性を目の奥だけに滲ませて澄ました顔をする少年に、年嵩の少女は不満そうだ。
だがふーっと息を吐くと、首に腕を絡めた。そのまま呟く。
「佳主馬くんには敵わないなぁ」
トーンを下げた声は落ち着いている。いつもの健二の調子だった。
「大人びているっていうかさ。余裕があるし」
「全然余裕じゃないよ」
間髪容れずに佳主馬は言い返す。
「本当に?」
「本当に。余裕じゃない。大人でもない。健二さんも、」
「僕?」
「あなたも大人じゃないよ」
「……そうだね」
乱暴に言い立てられ、少女は柔く目元を撓ませる。
いつの間にか馬乗りになった佳主馬は強い光を湛えた目で、健二を見下ろしている。この光に晒されると、大人ぶるのをやめて、ただの健二に引き戻されてしまう。そんな子どもっぽい自分が、健二は嫌いではなかった。
慈母のような表情を崩して、悪戯な少女の笑み閃かせ、細い少年の背骨の終点で手首を交差させる。
「こどもだね」
「こどもだよ」
安心したように、白い首もとに鼻の頭を擦りつける。こどもっぽい佳主馬の癖。
「ね、佳主馬くん」
「…何?」
「もっとあそぼう」
上目遣いの薄茶の瞳に異存などあるはずもなく、少年は倒れ込む。ばふっという間抜けな音と、羽毛布団の裾が舞って、落ちる。
「知ってる? こどもって、王様なんだよ」
理性も体勢も彼女に崩れ落ちるまま、王様兎は白い首筋に噛みついて吸い上げる。お兄ちゃんの経験談? と首を傾げた少女の思考はあっという間に溶ける。あとに残るのはこどもの遊びたいという欲だけ。だって構わない。僕達はどちらもこどもなんだから。
――こども達は一晩中、ベッドの上の遊び場から離れなかった。