※02話中の陣内家の皆様との会話が収録されております。



陣内家包囲網展開中



 健二くんはうちの立派な婿さんだ、と偉大なる祖母の台詞を踏襲してけしかける三兄弟と、押されっぱなしの健二の話し声に気付いたのか、のしのしと力強く歩み寄ってきたのは万助だった。閉口している健二を見るや、勢いよく背中を叩く。
「おお、元気出せや!」
「万助さん」
「おうおう、昼間っから疲れた顔するんじゃねぇや。頼むぜ婿さんよ!」
「はは……」
 豪快に笑い、言うだけ言って去る万助に、空笑いするしかない。
 その後も間を置かず人々がやって来ては健二に声を掛けてくれる。
「小磯さんったらもてもてですねー」
「頑張れよー健二くん。佳主馬は手強いぞぉー」
「せいぜい食べられちゃわないようにね」
「「「あっはっは」」」
 健二は顔を引き攣らせる。
 声を掛けてくれるのは嬉しいけど、これはちょっと。
 嫁の意見に逆らう気はないのか、旦那衆もさらに盛り上がった。
「ま、健二くんなら佳主馬を任せても安心だな」
「夏希とは妙な感じに落ち着いちゃったんだろ?」
「ちょっ、頼彦さんどこで知って」
「佳主馬も男を見る目があるよなぁ。さすが聖美ちゃんの娘だよ」
「うまくいったら報告くれよな」
 ぽん、と肩を叩いて去っていく三人を横目に、柱に寄りかかってセブンスターの煙を吐く直美は遠い目になる。
「それにしても、あの佳主馬がねぇ…」
「先越されちまったんじゃねぇの叔母さん」
「うっさいわねぇ!ねぇ、今からでもお姉さんにしない……?」
「あ、わ、」
 真っ赤にルージュを塗った唇を寄せて、健二の輪郭を撫でる。姪の妖しい行動の源泉はこの人か。
「青少年をからかうんじゃねぇよ。ま、せいぜい頑張れよ色男。シシシッ」
「ちょっと、引っ張んないでよっ」
 じゃれ合う(ように見える)二人に、後ろから洗濯物籠を抱えてやって来た理香が見咎めて張り上げる。
「こーらあんた達ー!暇なら家事手伝いなさい!」
「わっ、やべ。逃げろっ」
「ねーちゃん元気だなぁ……。お疲れ健二くん」
 賑やかに遠ざかっていく三人の背中を見送りながら、理一は穏やかに隣に立った。
「理一さん」
「佳主馬がここまで他人に心を開くのは珍しいことなんだよ。急な話で健二くんも戸惑っただろうが、よかったら佳主馬の心を汲んでやってくれないかな」
「……はい。僕も、このまま流されっぱなしって訳にはいかないし」
「頼もしいな」
「事態を放置しておくのは違うと思いますから」
「いい心意気じゃないか。それでこそ、うちの婿だ」
「…え?」
 理一の菩薩のような笑みがかえってあやしい。
 生まれて初めてアルカイックスマイルというものを見てしまった健二だった。


そして勧誘が始まる。翔太が乱入するも同席する面々にあしらわれる(合唱)。
陣内家は着々と健二さんを囲い込んでいます。