・チャットネタ。健二さん(♀)の裸を見てしまった佳主馬くんのその後。
・Standing Wonderlandさんの「お約束、なんていりません。」を前提にしています。先にそちらをお読み下さい。




13歳の暴走(初日編)




 納戸に戻った佳主馬がまずしたことは、きっちりと鍵をかけて、部屋の真ん中に転がることだった。
「忘れろおおおでも忘れたくないいいい」
 頭を抱えてごろごろ転がる。
 悶絶する佳主馬の脳裏には、先刻不意打ちで目にした女性の姿が再生されていた。
「なんなんだよあれっ。女の人って」
(女の人って!)
「うわぁあああああ」
 ごろごろっと部屋の隅まで横転し、ぶつかっては部屋の中央へ舞い戻る。そんな行動を数回繰り返した佳主馬は、不意にぴたりと停止した。
 動くはずのない部位が、熱い。
「………………え」
 だらっと冷や汗が垂れる。
 動くはずがない。だって、え、用を足すわけでもあるまいし、なんだってこんな、
「…………まさか」
(勃起して、る?)
 おそるおそる下着を押し上げる、よく知っているのに見知らぬもののような一部を握る。
 ぞわっと、得体の知れない感覚が駆け巡った。
 凍り付いてしまった佳主馬は、じわじわと背筋に這い寄る快感に急かされるように乱暴にハーフパンツごと下着をずり降ろす。
 目にしたことのない息子の姿に、かっと脳内に血が上った。目眩がする。
 保健の授業で話には聞いていた。異性に性的に興奮したとき、男性の性器は今の佳主馬のように反応する。
 でも、まさか、自分の身に起こるとは思ってもいなかった。それも、母の実家でたまたま目にした、親戚の姉さんの友達に反応するなんて。
「なんか、角度上がってるし……」
 刻々と形を変える息子さんの観察結果を茫然とつぶやく。
 むずむずと這い上がる感覚は、放って置いたら致命的なことになる気がする。
(OZで対処法を調べないと……っ)
 パソコンの電源に手を伸ばす、が。
 結果として、佳主馬にOZで調べたりグーグル先生に尋ねたりする余裕はなかった。


 本能に負けた佳主馬の手は、熱に急かされるまま勃ち上がった雄を握り、上下に掌を動かしていた。
 白い裸体が脳裏にちらつく。熱い吐息が漏れた。
「っふ、あ」
 自分の声に煽られる。
 溶けそうだ、と思った。戦慄にも似た悪寒が背筋をひっきりなしに滑り落ちて、どくりどくりと嵩を増す。
 先刻目にした彼女の身体は、湯上がりの熱でうっすら火照っていた。そして湯に暖められた血液でもごまかせない肌の白さ。
(っうぁ)
 どろりと先走りが零れる。
「……なんだよっ、これ……っ」
 思わず泣き言が漏れた。こんな感覚も、こんな自分も知らない。
(全部、あの人の所為だ)
 乳房は白く、先端が罪深い赤色に熟れていた。ささやかな谷間の間を水滴が伝い、幾筋も滑らかな腹を下っていく。辿り着いた下腹部は、直ぐさまタオルによって隠されたが濃茶色の体毛が薄く茂っていて、他の部位の何もかもが白い分違和感があった。
「忘れ、ろ、忘れて、くれよっ」
 一瞬の情景が目に焼き付いている。
 あれはアクシデントだ。ハプニングだ。だが、
(それがどうした)
(僕の意思じゃない)
(こんな、変化だってっっ)
 ひっく、と泣き出す寸前の嗚咽が漏れる。
 若い身体は止まらない。13歳の少年の目に、女子高生の裸体は明らかに毒だった。
 泣き出しそうな心持ちとは裏腹に、粘液の助けを借りた掌は摩擦を増していく。
 思考が熱に浮かされて剥がれはじめた。
 己を構成する要素がほろほろと解けていく。
 じん、と身体の中心に熱が注がれる。ちらちらとよぎるたびに嵩が増すリアルな変化が指先に伝わって。
(あ、あ、)
 腰が震えるような熱が、急激に掌の中の雄の証に集中していく。
 ちかちかと瞼の裏が明滅する。間隙に網膜に再生されるのは、幾ら振り払っても消えない幻影(リアル)。
 華奢な肩。濡れた髪の張り付く細い首。上目遣いに懇願してきた、母とも姉貴分とも親戚の女性とも学校の女子とも違う、丸い中に光を乱反射していた、恥ずかしげに潤んだ茶色の瞳――。
 一気に、熱が駆け上った。
「――っっ」
 どくり、と脈打った雄が弾けた。欲情の証である白濁を、数回にわけて吐きだしていく。最後まで絞り出すように、掌が勝手に数回扱くのを、熱に浮かされた視界は夢の中の出来事のように眺めていた。

 人心地着いた佳主馬が、べっとりと汚れた掌と、納戸に籠もる饐えた匂いに頭を抱えたのは言うまでもない。



(おまけ)

 白い柔肌が脳裏から離れなかった。
「………………」
 爽やかな蝉の鳴き声で目を覚ました佳主馬は、むっくりと上体を起こして掌を見た。
 いや、夢の内容を見返していた。
「…………またかよ」
 茫洋とした声音でごちた佳主馬は、早朝の鍛錬のために布団から抜け出そうとして、固まった。
 おそるおそる下半身を見下ろす。
 絡んだような感触と、僅かに濡れた寝間着。
「………はは」
 虚ろに乾いた笑いが漏れた。

 ――風呂場で見せたのとは全く違う性別を超えた精悍な眼差しと、食いつくような諦めない横顔に、佳主馬の心臓を根こそぎ持って行かれる一日半前の出来事だった。




 


色々とすいません。でも楽しかった(爆)