聞こえてくるのは親戚達の「キスしろ!」と囃し立てる声。
目の前に見えるのは周囲の言葉通り今にも互いの唇を合わせそうな従姉妹と――気になる彼の姿。

このまま黙って見ていろって?冗談じゃない
戦闘開始の鐘は鳴ってない。勝負はまだ始まってない。不戦勝なんて認めない。

「ちょっと待った」

凛と透き通った声が響き、皆はピタリと動きを止めて自分に視線を集中させる。キス寸前だった二人も驚いたようにこっちを見ている。まずは第一段階完了。
棒立ちで立ち尽くす彼の側まで近付く。歩く動きに合わせてひるがえる制服のスカートはいつもなら鬱陶しく感じるが、今はお兄さんの隣に立つ夏希ねぇ(朝顔柄の浴衣がとてもよく似合っている、綺麗な綺麗な従姉妹)に女として対抗できる武器のひとつだ。
お兄さんと20センチもないくらいの場所でピタリと立ち止まり、ジッと彼の顔を見つめる。身長差のため夏希ねぇのように目線が対等になることはないが、今の状態は自然と上目使い効果が発揮されるということでよしとしよう。
「か、佳主馬くん。どうかし」
「お兄さん」
「はい!」
「夏希ねぇのこと好き?」
「えぇ!?」
「ちょっと佳主馬!?」
僕の問い掛けにお兄さんも夏希ねぇも真っ赤になる。親戚たちは再確認するまでもないだろうと不思議そうにしながらも、僕達の様子を見守っている。
「そそそ、それは」
「さっき『大好きです』って言ってたけどそれは本心から?憧れだけじゃなくて?周りに流されてない?」
「えええええ」
「どうなの」
「あ、あの……本当に好き、だと、思いま、す」
『思います』、ね。
さらに顔を真っ赤にして答える彼の姿とその返答に少し胸が痛む。お兄さんは確かに夏希ねぇが好きなんだろう。それはわかっていた。でも
「じゃあ、僕のことは?」
「へ?」
「僕のことどう思ってる?」
「佳主馬、てめぇ何がしたいんだよ!」
「うるさい外野は黙れ」
不可解な質問を続ける僕に痺れを切らしたのか、他の親戚達に押さえつけられたまま翔太兄が叫ぶが、始めから眼中にはないので一言で切り捨てる。まだ『外野って何だ』だの『夏希〜』だの叫んでいるが僕の意識からは既にシャットアウト済だ。
うるさい従兄弟は放っておいて、目の前の意中の彼に再び意識を集中させる。
「佳主馬くんのこと…?」
「そう。僕のこと、好き?」
「えっと、佳主馬くんはキングカズマとして活躍しててカッコ良かったし、いろいろ助けてもらったし…好き、だよ?」
少し照れたように答えてくれたお兄さんはとても可愛かった。例えその『好き』が恋愛対象としての『好き』じゃなくても、好意を持ってくれているとわかっただけで今はいい。今は
「そう、よかった」
「うん?」
「佳主馬、あんたまさか」
「ねぇ、お兄さん」
僕が何をしようとしているのか気付いたのか夏希ねぇが言葉を発するが、それを遮りお兄さんに呼びかける。邪魔はさせない。仕掛けるなら今しかない。
なに?と僕の言葉を待つお兄さんにゆっくり、全ての気持ちを込めてはっきりと告げた。

「僕はお兄さんが、健二さんが好きだよ」

「へ?」
「勿論、異性として。一人の男性として」
「え」
「「「「ええええええええ!?」」」」
驚きの悲鳴が響き渡る。
告白された張本人、健二さんはまだ僕の発言を理解しきれてないらしく固まっている。それは悲鳴をあげた親戚一同も同じだったが、いち早く復活した夏希ねぇが詰め寄ってくる。
「な、何言ってるのよ佳主馬!健二くんは私の」
「私の、何?夏希ねぇの彼氏?違うよね。バイトで来てもらった偽彼氏なんだから」
「それは!」
「大体夏希ねぇは健二さんが好きなの?本当に?優しい後輩のカッコいい一面を見て私のヒーローとかって舞い上がってるだけじゃないの」
「な!?」
「吊り橋効果で気持ちが揺れてるだけなら僕だって遠慮しないよ。夏希ねぇには年上で東大卒で帰国子女で理想的な侘助おじさんの方がお似合いじゃないかな」
次々と繰り出される僕の言葉に夏希ねぇは顔を真っ赤にしたまま言葉も出ないようだ。顔の赤い原因が、僕の言った健二さんへの気持ちが図星だったせいか、侘助のことを指摘された気恥ずかしさから知らないけど、ここで間髪入れずに健二さんが好きって言えないなら僕の気持ちの方が上だって判断させてもらう。
「僕は健二さんが好き。その気持ちは夏希ねぇに負けない。健二さんの夏希ねぇへの気持ちにだって負けるつもりはない。僕は一歩も譲らない」
戦闘開始の鐘は鳴ってない。勝負はまだ始まってない。不戦勝なんて認めない。だから
「だから健二さん」
「はい!?」
「好き。だから諦めない」
未だに展開についてこれてない健二さんの胸ぐらを掴み、力一杯自分の方に引き寄せる。そして

「「「「あああああーーー!!!?」」」」

自分の唇と彼の唇を重ね合わせた。

先手必勝。
キスされている張本人は完全に硬直状態。
周囲は再び悲鳴をあげているがそんなの関係ない。
強く、僕の気持ちが、意思が少しでも伝わるように願いを込めて。
重ねていた唇をゆっくり離し、沸騰寸前という感じの健二さんに向かって不敵に微笑み言葉を紡ぐ。


「覚悟してね」


途端、健二さんは沸点に達したのか鼻血を出してバタリと倒れてしまった。



宣戦布告は高らかに


(勝負はいま始まった)
(まだ負けてない。そうでしょ?)




ポスラミィ(旧・Standing Wonderland)さんのセイカ様から誕生日プレゼントに頂きました。
このにょかずの王様ぶりったらもう……!悶えという名の震えが止まりませんね!ありがとうございました!